祖父母の住む地域に伝わる、〈などらぎ〉なる化け物。
首を跳ねられ、洞窟の底に封印されてなお、その怪物の胴体は首を探して彷徨っていると言う。
小学生のある日、〈僕〉は不可解な状況で首が消えるのを目撃し…。
『ぼぎわんが、来る』で鮮烈なデビューを果たした澤村伊智氏が描く、〈比嘉姉妹シリーズ〉初の短編集!
こんな人におすすめ!
- ホラー小説が好きな人
- ミステリ小説が好きな人
- 京極夏彦氏の作品が好きな人
あらすじ・内容紹介
祖父母の住む地域に伝わる、〈などらぎ〉なる化け物。
跳ね落とされた首が洞窟の奥に封印されているというその怪物は、今なお胴体が首を求めて彷徨っているという。
小学生の頃、苦手な従兄弟に連れられて嫌々ながらその首を見に行った〈僕〉は、不可解な状況での首の消失に立ち会うことになった。
高校生になった〈僕〉は、同級生の〈野崎(のざき)〉と共に、再び首消失の謎に挑むこととなるが…。
〈比嘉姉妹シリーズ〉共通のキャラクターである〈野崎〉の初めての事件を描いた表題作、『などらぎの首』の他、野崎と〈比嘉真琴(ひが まこと)〉との出会いを描いた『ファインダーの向こうに』や、真琴の2人の姉、〈比嘉琴子(ひが ことこ)〉と〈比嘉美晴(ひが みはる)〉の学生時代を描いた『学校は死の匂い』、京極夏彦氏の作品へのオマージュを込めたであろう『居酒屋脳髄談義』など、全5作を収録。
〈比嘉姉妹シリーズ〉のファンには必見の初短編集!!
『などらぎの首』の感想・特徴(ネタバレなし)
明かされる、キャラクターたちの過去の事件
姉の話はやめてください
〈比嘉姉妹シリーズ〉初の短編集である今作では、過去作の『ぼぎわんが、来る』や『ずうのめ人形』に登場したオカルトライター〈野崎崑(のざき こん)〉や、比嘉姉妹こと〈比嘉琴子〉〈比嘉美晴〉〈比嘉真琴〉の3人の過去が明かされる。
後に結婚することになる野崎と美晴の出会いや、野崎が初めて怪異に触れることとなった事件などは、ファンにとっての大きな注目ポイントだろう。
何事も冷静且つ客観的に捉えようとして疑ってかかる野崎と、〈本物の霊能者〉である真琴の出会いや、『ずうのめ人形』の作中に怪異によって命を落とした美晴が、学校に潜む怪異に挑む様子など、おそらくはファンが〈知りたい〉と思うであろう要素をピンポイントで突いてくる、見事な短編集だ。
また〈比嘉姉妹シリーズ〉の世界観には、様々な〈霊能者〉が存在しているのは、第1作目の『ぼぎわんが、来る』の中での描写からも明らかだ。
今作では新たに〈鎮め屋〉、あるいは〈潰し屋〉と呼ばれる胡散臭い霊能者が登場する。
多数の霊能者が、それぞれの手法を持って(失敗することもあれど)怪異に対峙する様子もまた、今作を盛り上げる1つの要素だろう。
物語のあちらこちらに、ファンにとって嬉しい要素を挿入してくる著者・澤村伊智氏のサービス精神は、読者の手を止めさせることはない。
ミステリとホラーの融合
……取り戻しに来た、ってことか
今作の表題作『などらぎの首』では、見事な〈ミステリとホラーの融合〉の要素も披露している。
過去作『ぼぎわんが、来る』や『ずうのめ人形』ではオカルトライターとなり、既に怪異の存在を認識していた野崎が、初めて怪異に関わったこの事件。
それ故に今作中の野崎は、怪異の存在に対して懐疑的だ。
そんな彼だからこそ、作中での〈不可思議な状況で首が消失する〉という怪事件に対して、オカルトではなくミステリの文法で解釈を行う。
あくまでも冷静で現実的に、あらゆる事象に対して〈物理的に起こり得る可能性〉を提示して〈首消失〉に真相を語る彼の活躍は、探偵さながらだ。
ミステリ的な推理の果てに、野崎が語る結論。
そして、その結論の先に訪れる、〈などらぎ〉の真の恐怖。
ミステリ的な文法による解釈の末に怪異に至る様は、ミステリとホラーが見事に融合しており、澤村氏の力量の高さを見事に見せ付けてくれる。
野崎は、初めて接触する怪異に対してどのような反応をするのかも含めて、要注目の1話だろう。
京極夏彦氏へのオマージュも
どんな憑物を落としてくれる?
今作に収録されているうちの1話、『居酒屋脳髄談義』では、〈百鬼夜行シリーズ〉でお馴染みの京極夏彦氏や、夢野久作氏による『ドグラ・マグラ』へのオマージュも盛り込まれている。
女性蔑視と偏見に満ち溢れた中年男性3人組を相手に、〈牧野晴海(まきの はるみ)〉と呼ばれる女性が滔々と語る言葉の数々。
〈胎児の夢〉を例に出しつつ人間の脳髄について語る彼女の様子は、圧巻の一言。
煙草を加えて紫煙を吹かしながら語る様は、文字通り人を煙に撒くかのようだ。
更に〈荘子〉の『胡蝶の夢』を引き合いに語り、自らの脳髄すらも信用できなくしていく様は京極夏彦氏の〈百鬼夜行シリーズ〉に登場する憑物落とし、〈京極堂〉こと〈中禅寺秋彦(ちゅうぜんじ あきひこ)〉を思わせる(実際、3人の男性のうち1人は嫌味を込めて〈大したもんだよ、京極堂〉と皮肉を口にしている)。
加えて、直後に〈罔兩(もうりょう)〉を例に出すところまで含めて、ストーリーとオマージュを見事に掛け合わせている。
今作を読み始める前に、もしくは読了後にでも、夢野久作氏の『ドグラ・マグラ』や京極夏彦氏の『魍魎の匣』を読んでおくと、更に今作の味わいが増すことだろう。
まとめ
〈比嘉姉妹シリーズ〉初の短編集である今作では、『ぼぎわんが、来る』や『ずうのめ人形』に登場したキャラクターたちが、過去に関わった事件のあらましが描かれる。
描かれる過去の事件は、〈野崎が初めて怪異に関わった事件〉や〈野崎と真琴の出会い〉、あるいは〈美晴の過去の事件〉といった、ピンポイントでファンが気になるであろう部分であり、〈比嘉姉妹シリーズ〉のファンにとっては必読の1冊だ。
更に、〈ミステリとホラーの融合〉や〈著名な作品へのオマージュ〉の要素も詰め込まれている(完全な憶測だが、おそらく著者・澤村伊智氏の読書遍歴に由来する部分も大きい気がする)。
他作品を読んでおくことで、更に深みが増すという短編集であるため、この1冊からでも楽しめるという見事な作品だ。
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