大塚愛、衝撃の小説家デビュー! と聞いて、興味をそそられたのは私だけではないはず。大塚愛ドンピシャ世代のアラサー男子が、僭越ながら率直な感想を述べさせていただきます。
大塚愛といえば、数々の恋愛ソングを生み出したシンガーソングライター。
私が学生の頃は「さくらんぼ」がカラオケの定番曲で、のちに大塚愛の嫌いな食べ物が“さくらんぼ”と知った時はかなり衝撃を受けたっけ(笑)。
そんな恋愛ソングのカリスマが、まさかの小説デビュー!
てっきり恋愛小説でも書くのかと思いきや、ホラー小説だというからさらに驚きです。
タイトルはずばり、「開けちゃいけないんだよ」。
物語の舞台は、お屋敷のような祖母の家。
10歳の少女・さゆりは地下室に置いてある“アルミシートに包まれたもの”に強く興味を惹かれるものの、祖母から決まって言われるのは
「開けちゃいけないんだよ」
ちなみにこのアルミシートに覆われた物体、実際に大塚愛の家にも同じようなものが置いてあるそうです(そっちの方が気になると思ったのはここだけの話)。
で、結局面白かったかどうかといえば… これが悪くない。
失礼な話、“歌手が小説家デビューなんてたかが知れてる”くらいに思っていたのですが、いい意味で裏切られました。
大塚愛ってこんなのも書けるんだ、と―。
逆に言えば、全く大塚愛らしくないのです。
大塚愛の全盛期を知っている私たちからすれば、大塚愛=恋愛、可愛い、明るい、笑顔咲ク… というポップなイメージ。
ところが蓋を開けてみると、笑顔咲クどころか終始ほの暗い文体。
たとえば物語冒頭から悲壮感たっぷりです。
蝉が鳴いている。左から、右から、真上から、または真下から。それは悲鳴のようで、主張のようで。皆歌うように死んでいく。地に転がり、誰かに踏まれ、何かに潰され、それでもただ鳴いている。
普通「蝉」ときたら、元気に鳴いている様を思い浮かべるでしょう。
しかし大塚愛が描く蝉は、“鳴いている”というより“泣いている”。
どこか悲しくて寂しげ… まるで目の前の情景にほの暗いフィルターがかぶさったかのよう。
言うならば、祖父母や古い親戚が住んでいるような昔ながらの家。
扉は引き戸、窓はすずりガラス、おまけにちょっと薄暗い… そんな家ってどこか不気味な感じがしません?
大塚愛の小説はまさにそんな感じです。
ドキッとするような怖さはないけれど、むしろホラーとしては少し生ぬるさすら感じますが、この独特な世界観がとてもいい味を出してるのもまた事実。
ちなみに下記の言葉は、大塚愛のインタビュー記事から引用したもの。
どんなに暗くとも、どんなに重くとも、小説なら受け止めてもらえる
この言葉を読んだ時、ふと思ったんです。
本当は明るい歌だけでなく、暗くて生々しい世界も描きたかったんじゃないかなって。
私たちが知っている“歌手・大塚愛”と“小説家・大塚愛”の間に感じたギャップ。
この壮大なギャップに、彼女の新たな可能性を感じました。
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