プロ作家の道は厳しい。
一度デビューしても売れなければ食べていけず、一発屋で終わってしまうことも珍しくない世知辛い世の中だ。
が、案ずるなかれ。立ち直る方法はある。
今回は野村美月の傑作ライトノベル『文学少女シリーズ』から、挫折した作家が再起する方法を教えたい。
三題噺で作文をしろ
元ひきこもりの高校生作家・心葉は、高校の文学部で食べてしまうほど本が好きな(比喩ではない)遠子先輩と出会い、放課後の部室にて三題噺の作文を書かされる。
彼女が宿題に出す三題噺はちぐはぐなものが多く、「この組み合わせでショートストーリーができるの?」と疑問符が増殖するが、心葉はこれをうんうん悩みながらも上手く料理し、あるいはからかわれた腹いせにわざと変な話を作り、遠子先輩を一喜一憂させる。
「書きたいけどネタがない!」というのは作家にとって大きな悩みだ。
家にこもって刺激の少ない生活をしていると、余計に想像力が枯渇する。
そういう時こそ三題噺だ。
今はSNS向けの創作お題診断も豊富だし、各投稿小説サイトでは毎月テーマを設けてコンテストが実施されている。
創作の恥は書き捨て。
一見関係のない単語でも結び付けようと粘るうちに、意想外のストーリーが生まれるかもしれない。
ひとりでパソコンと向き合い行き詰まったら、よそからインスピレーションをもらってはどうだろうか。
沢山の人と出会って経験を積め
心葉と遠子先輩はタッグを組み、文学部に持ち込まれる事件を解決していく。
その過程で様々な人々と出会いや別れをくり返すのだが、この経験は心葉に吸収され、やがて彼の作品に結晶する。
即ち、捜査の一環として人と会うことが取材になっていたのだ。
ひとりで創作しているとどうしても壁にぶちあたる。
体験しない事でも想像で補って書くのが作家かもしれないが、専門職の知識や面白エピソードは、実際その仕事に携わっている人からしか聞けない。
いわんや波乱万丈な生い立ちや劇的なドラマを背負った人でなくとも、実際会って話すことで、物語に欠くことのできない「普通の人」の類型がストックできる。
人と会うのは気分転換になるし、思いがけないネタもゲットできるとあっていいこと尽くしだ。
古典を読みまくれ
『文学少女シリーズ』には数多くの古典の名作が登場する。
太宰治の『人間失格』、エミリー・ブロンテの『嵐が丘』、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』と、本好きならずとも一度は聞いたことのあるタイトルが並ぶのは壮観だが、時代錯誤と侮るなかれ。
本作はこれらの古典に現代風のアレンジを加え、エンターテイメントに昇華しているのだった。
心葉たちが関わることになる事件はそれぞれの古典の見立てともいえるもので、『人間失格』をメインに据えた一作目は共感性の欠如した人間の生きにくさ、続く二作目は『嵐が丘』になぞらえた恋人たちの悲劇と、どれも皆時代をこえたテーマの普遍性を実感させられた。
遠子先輩はこれ全部読破してるんだからすごい。
0から1を生み出すのは難しい、というか往々にして不可能だ。
すべての創作は模倣から始まると言われるが、古典で物語のパターンが出尽くしているなら、本棚でカビさせておくのはもったいない。
古典を読んで読んで読みまくり、今に至れど色褪せないテーマ性や物語の基本構造を習得すれば、作家として絶対に一皮剥けるはず。
ハーレクインの本流、天涯孤独のヒロインが大富豪に見初められるシンデレラストーリー『嵐が丘』や、絶世の美青年を主人公に据えたハーレム物の元祖『源氏物語』が、娯楽要素満点の女子供の読み物と見なされていたのを忘れてはいけない。
読者の心を掴みたければ古典に学べ。
この記事を読んだあなたにおすすめ!







書き手にコメントを届ける