現代の本格ミステリ作家の代表・有栖川有栖。
その作風はひたすら論理に裏打ちされた緻密なミステリで、読者を常に唸らしてきた。些細な伏線をきちんと回収し、納得できない推理などどこにもない。
今回はその中でも、筆者が特に好きな「火村シリーズ」「ノンシリーズ」「異形の探偵シリーズ」「エッセイ集」をご紹介。必ずどれか1つは読みたくなるはずだ。
目次
『ロシア紅茶の謎』
江戸川乱歩へのオマージュ作品などバラエティー豊かな国名シリーズ。
中でも表題作「ロシア紅茶の謎」は犯人の度胸と、そのトリックの巧妙さに脱帽せざる得ない。火村の心理戦と、巧みな話術で犯人を追い詰めていく様はかなり見物だ。
ラストに火村センセの「影の部分」が垣間見られて、その言葉の深さも考えさせられる1冊である。
作詞家が中毒死。彼の紅茶から青酸カリが検出された。どうしてカップに毒が?表題作「ロシア紅茶の謎」を含む粒ぞろいの本格ミステリ6篇。エラリー・クイーンのひそみに倣った「国名シリーズ」第一作品集。奇怪な暗号、消えた殺人犯人に犯罪臨床学者・火村英生とミステリ作家・有栖川有栖の絶妙コンビが挑む。
『英国庭園の謎』
倒叙ものから、日本語で遊ぶ暗号まで収録されている国名シリーズ。
なかでも「ジャバウォッキー」は「日本人でよかった!」と思えるようなミステリ。日本語をこねくり回して、「これでもか!」というほど火村と有栖を悩ませる。
この1つの物語で本格ミステリのカタルシスが存分に楽しめるだろう。
資産家の人知れぬ楽しみが、取り返しのつかない悲劇を招く表題作。日本中に大パニックを起こそうとする“怪物”「ジャバウォッキー」。巧妙に偽造された遺書の、アッと驚く唯一の瑕疵を描いた「完璧な遺書」―おなじみ有栖川・火村の絶妙コンビが活躍する傑作ミステリ全六篇。待望の国名シリーズ第4弾。
『カナダ金貨の謎』
実は、この国名シリーズ短編集が発売されたとき、ファンはとても浮足立った。
長編ももちろん人気なのだが、久々のこのシリーズの短編集にファンは泣いて喜んだものだ。
短編集なので手に取りやすく、もちろん読みやすい。特に「船長が死んだ夜」は燃え上がる恋と、「もしかして勘違いでは?」と思わせるラストの余韻がとてもいい。
民家で発見された男性の絞殺体―殺害現場から持ち去られていたのは、一枚の「金貨」だった。完全犯罪を計画していた犯人を、臨床犯罪学者の火村英生と推理作家の有栖川有栖がロジックで追い詰めていく!表題作「カナダ金貨の謎」ほか、切れ味鋭い中短編「船長が死んだ夜」「エア・キャット」「あるトリックの蹉跌」「トロッコの行方」を収録。
『怪しい店』
国名シリーズではない火村シリーズの短編集で、テーマは「店」。
一貫したテーマで書かれているミステリだが、彩り豊かな本格ミステリばかりで、国名シリーズだけでは飽き足らなくなってしまった人には特におすすめ。
国名シリーズのようにテーマはちゃんと持たせてあるので、火村シリーズを国名シリーズから入ったとしても抵抗なく読めるはずだ。
推理作家・有栖川有栖は、盟友の犯罪学者・火村英生を、敬意を持ってこう呼ぶ。「臨床犯罪学者」と。骨董品店“骨董 あわしま”で、店主の左衛門が殺された。生前の左衛門を惑わせた「変な物」とは…(「古物の魔」)。ほか、美しい海に臨む理髪店のそばで火村が見かけた、列車に向けハンカチを振る美女など、美しくも恐ろしい「お店」を巡る謎を、火村と有栖の名コンビが解き明かす。
『火村英生に捧げる犯罪』
こちらも国名シリーズではない火村シリーズの短編集。
有栖は火村のことを「臨床犯罪学者」と呼ぶが、火村はつくづく犯罪というものに魅入られれてしまっているな、という印象を受ける1冊。それは決して悪い意味ではなく、火村自身も犯罪を解き明かすことに魅入られてしまっているのだ。
テーマ性を持たせていない火村シリーズが読みたい人におすすめ。短編集ながらボリューミーで、大満足な1冊になるはずだ。
「とっておきの探偵にきわめつけの謎を」―臨床犯罪学者・火村英生のもとに送られてきた犯罪予告めいたファックス。術策の小さな綻びから犯罪が露呈する表題作ほか、過去の影におびえる男の哀しさが余韻を残す「長い影」、殺された男の側にいた鸚鵡が真実を暴く「鸚鵡返し」など珠玉の作品が並ぶ人気シリーズ。
『46番目の密室』
大御所作家の別荘へと有栖が招かれたことによって巻き込まれる火村シリーズの長編。
王道の密室ものといえばそうなのだが、その推理の過程での2人の会話もとても楽しい。有栖がまともじゃない推理を披露するのはいつものことだし、火村が考えを話さないのもいつものこと。2人のデフォルトの姿が垣間見れるのは読者もきっと楽しいだろう。
火村シリーズの長編はこの1冊からどうぞ。
日本のディクスン・カーと称され、45に及ぶ密室トリックを発表してきた推理小説の大家、真壁聖一。クリスマス、北軽井沢にある彼の別荘に招待された客たちは、作家の無残な姿を目の当たりにする。彼は自らの46番目のトリックで殺されたのか―。有栖川作品の中核を成す傑作「火村シリーズ」第一作を新装化。
『海のある奈良に死す』
有栖の同業者が死体で見つかり、有栖はその最後に話した人物として火村と調査を開始する。
火村シリーズの長編であるため、かなり入り組んだロジックが炸裂する。論理的に推理するとはまさにこのことである。
ここまでタイトルが意味深で、秀逸な有栖川作品ってあります?と声を大にして言いたい。
半年がかりの長編の見本を見るために珀友社へ出向いた推理作家・有栖川有栖は同業者の赤星と出会い、話に花を咲かせる。だが彼は〈海のある奈良へ〉と言い残し、福井の古都・小浜で死体で発見され……。
『インド倶楽部の謎』
「インド倶楽部」と呼ばれる集まりのメンバーが相次いで殺害され、その謎に包まれた集まりとともに殺人事件の調査をする。
「ここまで謎を引っ張ります?」と言いたくなるもったいつけた謎解きがかなり魅力的。解かれる謎もかなり読み応えがあり、ボリュームに圧倒されないカタルシス。
国名シリーズの短編が物足りなくなったら、ぜひこの長編を。
生まれてから死ぬまで、運命のすべてが記されているという「アガスティアの葉」。神戸で私的に行われたリーディングセッションに参加した“インド倶楽部”のメンバーが相次いで殺される。前世の記憶を共有するという仲間の予言された死。臨床犯罪学者・火村英生が論理の糸を手繰る“国名シリーズ”第9弾。
『濱地健三郎の霊なる事件簿』
ミステリはミステリでも、がっつりと心霊ミステリ。
ホラーまではいかないが、普通に幽霊も心霊現象も登場する。ただし、恐怖よりも興味が勝ってしまうのがミステリ好きの性。
ミステリ要素もふんだんに含んでいるので、ホラーが苦手という人もほかの有栖川作品と同じように読めるのでご安心を。
探偵・濱地健三郎には鋭い推理力だけでなく、幽霊を視る能力がある。彼の事務所には、奇妙な現象に悩む依頼人のみならず、警視庁捜査一課の刑事も秘かに足を運ぶほどだ。ホラー作家のもとを夜ごと訪れる幽霊の目的とは?殺人事件の被疑者が同時刻に複数の場所にいたのは、トリックか生霊か?
『壁抜け男の謎』
ノンシリーズの傑作短編集。
読者への挑戦状から、メタフィクション、SF系、ファンタジー系ミステリまで、とにかくジャンルは多岐にわたる。
「シリーズものに手を出すのは…」とためらっている人や、試しに有栖川作品を読んでみたい人には特におすすめ。ここから火村シリーズに行くもよし、別のシリーズに行くもよし。有栖川作品の傾向と対策に。
富豪の屋敷から名画が盗まれた。しかし屋敷内に作られた迷路の中に絵を残し、犯人だけが消失した!?(「壁抜け男の謎」)小説家に監禁された評論家。かつては酷評していたが、最近は誉めていたのに。なぜこんなことを?(「屈辱のかたち」)犯人当て小説から、敬愛する作家へのオマージュ、近未来小説、官能的な物語まで。色彩感豊かな「16」の物語が貴方を待つ。
『有栖川有栖の密室大図鑑』
デビュー30周年にあわせて復刊した1冊で、国内ミステリから海外ミステリまで、幅広い密室をイラスト付きで解説してくれている。
ミステリのプロに直接、「密室の講義」をしてもらえる贅沢な本なのだ。
文庫特別編もついているとこもかなりおいしい。
「密室」、それは本格ミステリにおける魅力の一つ。1892年から1998年に発表された密室が登場する名短編、名長編より有栖川有栖がセレクトし、磯田和一の詳細なイラストを添えて贈る。世界初の長編密室ミステリとされるイズレイル・ザングウィル『ビッグ・ボウの殺人』をはじめ、名探偵・金田一耕助の初登場作品である、横溝正史『本陣殺人事件』など、絵になる密室41作をどうぞ。
『ミステリ国の人々』
古今東西、国内から海外まで様々なミステリの「登場人物」たちにスポットを当てた1冊。
ミステリ好きなら誰もが知っているキャラクターから、埋もれてしまっているキャラクター、名前がつけられてないキャラクターまでたくさんの登場人物たちが紹介される。
そのキャラクター性のどこが上手いかを指摘している部分は、思わずうなってしまう。
これぞミステリ!と膝を打ついかにも“らしい”52人。あの名探偵から、つい見逃してしまう存在まで、名編の多彩な登場人物にスポットライトをあて、世相を織り交ぜながら、自在に綴ったエッセイ集。作家ならではの読みが冴える、待望のミステリガイド!
『論理仕掛けの奇談』
有栖川さんが手がけた様々な書籍の解説集。
ミステリが好きな人なら一度は手に取るであろう人たち、例えばアガサ・クリスティー、綾辻行人、松本清張。そんな巨匠たちへの愛と尊敬が詰まった文章たちは読んでいてこちらにも、十二分に愛が伝わる。
ロジックを大切にする有栖川さんらしく、解説でもぬかりなくそれが発揮されている。
松本清張、アガサ・クリスティー、エラリー・クイーン、綾辻行人、皆川博子…。本格ミステリのプロフェッショナルが愛を持って執筆した、宝石のような名作の解説を47本収録!
おわりに
以上、有栖川有栖のおすすめ13作品を紹介した。
ここでは紹介できなかったのだが、有栖の学生時代が読みたい人は「江神シリーズ」もおすすめ。いずれにせよ、ロジックをとても大切にしている有栖川さんの文章に唸ること間違いなしだ。
「本格ミステリが読んでみみたい!」という人は、ぜひ一度手に取ってほしい。
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