火星旅行の記憶を買う男や、罪を犯す以前に裁かれる社会。
荒廃した世界で起こる、人間とロボットの戦い。
12歳未満の者は人間と認められず、狩り立てられるディストピア。
SF小説の大家、フィリップ・K・ディックの描く様々な未来社会を編纂した、傑作短編集。
こんな人におすすめ!
- SF小説が好きな人
- フィリップ・K・ディックの作品が好きな人
- SF小説に興味はあるが、中々手が出せない人
あらすじ・内容紹介
アメリカとソ連の戦争後の世界。
ソ連の勝利が決定的となりかけたときに現れたのは、自立行動型のロボット〈クロー〉だった…(変種第二号)。
夜毎に火星行きの夢を見ていたクウェール。
念願の火星旅行を叶えるため、リコール社に向かった彼を待っていたのは…(トータル・リコール)。
予知能力者〈プレコグ〉の力を借り、犯罪行為を未然に防ぐことができるようになった未来。
ある日、犯罪予知局の局長〈アンダートン〉は、余地を分析したカードの中に、自分の殺人を予知したものを見つけ…(マイノリティ・リポート)。
世界を陰でコントロールする組織。
その存在を知ってしまった男の行く末は…(アジャストメント)。
12歳以上でないと、人間と見做されない世界。
そこでは、12歳未満の者が狩り立てられていた(人間以前)。
数多の近未来を描き続け、更にはその多くが映画化もされているSF小説の大家、フィリップ・K・ディックの中短編作品を集めた、傑作選!
『人間以前 ディック短編傑作選』の感想・特徴(ネタバレなし)
様々な近未来的世界観
その超現実的記憶とやらは、ほんとに納得のいくものなんですかね
フィリップ・K・ディック作品の魅力の1つが、その近未来的な世界観だろう。
例えば今作中の『変種第二号』では、〈アメリカとソ連による戦争〉という、あり得たかも知れない世界の背景と、ロボットが闊歩するという非現実的な要素が見事に絡み合っている。
更にそこに、戦争によって荒廃した世界の描写が加わることで、退廃的な世界観と、先の見えない戦いの絶望感が見事に表現されている。
また、別作品の『マイノリティ・リポート』では、〈犯罪予知技術〉の背景を描き説得力を持たせていることで、より物語への没入感を得られる。
その他、〈戦争〉をテーマにブラックユーモアを織り交ぜた作品や、人が人として扱われない悍ましさを感じさせる作品など、その作風は多彩の一言だ。
氏の描く世界は、未来感と、それと相反するかのような退廃的な空気感が独特の味わいを持つ。
今作の『フィリップ・K・ディック短編傑作選』には、様々な作品が収録されており、きっと、多様な氏の世界を楽しむことができるだろう。
また今作は中短編集であるため、1つ1つの物語が短めで読み易い。
SF小説の入り口としてもお勧めだ。
映画化作品も多数
犯罪予防局のおかげで、重犯罪は九十九・八パーセントも減った。
氏の著作である『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』が、『ブレード・ランナー』として映画化されたことは、有名な話だろう(また近年では『ブレード・ランナー2049』という続編映画も作られた)。
今作に収録されている中短編にも、そんな映画の原作となった作品が多数収録されている。
表題ともなっている『トータル・リコール』も、かの〈アーノルド・シュワルツネッガー氏〉が主役を演じた1990年版と〈コリン・ファレル〉が主役を演じた2012年版と、2度に渡る映画化がなされている。
また、『アジャストメント』や『マイノリティ・リポート』、『変種第二号(映画タイトル:スクリーマーズ)』なども映画化がなされており、フィリップ・K・ディックの作品の人気の程が窺える。
この原作小説は、そんな映像化作品たちの別の顔を見せてくれる。
例にあげた『トータル・リコール』や『アジャストメント』は50ページ足らずの短編作品だし、『マイノリティ・リポート』も80ページに満たない。
ストーリーも映画と原作小説で大きく異なっている。
映画を見てから原作を読んで違いを探すのもよし、原作を読んでから映画を見て物語の膨らみ方や、映像の再現度に驚くも良しの多様な楽しみ方ができる小説だ。
長編作品と世界観を共にするものも
生者との肉体の一騎打ちでは、しょせん半生者に勝ち目はない。
今作に収録されている中編『宇宙の死者』は、長編小説『ユービック』と世界観を共有している。
詳細は省くが、『ユービック』とは〈時間の逆行現象〉を主題に扱った作品だ。
非常に難解な作品であるため、世界観を落とし込むのが少し難しいかもしれない。
今作『宇宙の死者』を読むことで、作品世界の背景を知ることが容易になるため、『ユービック』を読み進めていくための一助となる上に、互いの魅力を引き立てあっている。
是非とも両作品ともに、読んでみて欲しい。
またその他にも、今作には『人間とアンドロイドと機械』という作品が収録されているのだが、これはフィリップ・K・ディックの代表作とも呼べる『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』に関わってくるものだ。
こちらも、『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』と同時に読んでみると、新たな発見があるかもしれない。
まとめ
多彩な近未来世界を描くフィリップ・K・ディック氏の中でも、中短編を集めた今作は、SFの入門書として素晴らしい完成度を誇る。
SFに興味がある人であれば、一度手に取ってみて欲しい作品だ。
また、多数の作品が映像化もされているため、原作小説と比べてみるのもまた一興だろう。
興味があれば、是非ともどちらも見てみて欲しい。
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