記憶とは何だろう?
もちろん、その人にとって都合のいいように記憶されているものだが、もし都合よく書き換えることができる技術があったら・・・。
「そんなことあるわけないだろう、SFじゃないんだから」と思ってはいけない。
科学が飛躍的に発展している現代、決してないと言い切れるだろうか?
わたしたちの知らないところで、極秘に開発されているかもしれない技術。
使いようによっては、善にも悪にもなるかもしれない恐ろしいものだ。
想像してみても、いまひとつピンとこないものだが・・・そんな世界があるのだ、実は。
こんな人におすすめ!
- 空想することが好き
- コンピューターや最新技術が好き
- 忘れたい、消してしまいたい記憶がある
- 「もし、世界がこんな風だったら」と考えることが好き
あらすじ・内容紹介
主人公は敦賀崇史(つるが たかし)、大学院生。
週に3回、毎朝決まった時刻に同じ山手線、同じ車両に乗っている。
隣を並走する京浜東北線にも、決まって大学生くらいの女性が乗っているのを見ていた崇史。
「就職前の最後のチャンスだ」と京浜東北線に乗り、彼女を探す。
彼女も同じことを考えたのか、彼女は山手線に乗っていてすれ違いに・・・。
急いで山手線に乗り替えるも、彼女はもういない。
「二つの電車内はまるでパラレルワールドだ」と思うのだった。
その後、崇史は中学時代から親友である三輪智彦(みわ ともひこ)と一緒にMAC技科専門学校へ進学する。
MAC技科専門学校は、米国に本社を置くバイテック社が最先端技術の研究と社員の英才教育を目的に作った学校だ。
ある日、智彦は去年9月にパソコンショップで女性と知り合い、その人と交際し始めたことを崇史に報告。
後日紹介したいと言われ、崇史が待っていると、喫茶店に智彦と彼女が現れる。
なんと崇史が大学院生時代いつも京浜東北線で見ていた女性だった。
女性は津野麻由子(つの まゆこ)、彼女もMACに入ってくるという。
今までは、崇史と智彦の友情は揺らがなかったが、麻由子の登場で2人の友情に変化が。
麻由子は崇史を知っているような反応を一瞬見せるが、以降は何もないように接してくる。
『パラレルワールド・ラブストーリー』の感想・特徴(ネタバレ)
序盤の出会いが印象的
もし自分が通学・通勤する同じ時間に、いつも同じ魅力的な異性を見かけたら気にならないだろうか。
その電車は、近づいたり、離れたりしながら、同じように走っていた。ほぼ同じ速度だがら、最接近した時などは、まるで一緒の車両内にいるかのように、向こうの乗客のようすを見ることができた。無論、向こうからもこちらのようすが手に取るようにわかるはずだった。だがどれだけ近づいても、双方の空間に交流はない。あちらはあちらで、こちらはこちらで世界が完結している。
今のご時世なら、下手に声をかけようものならストーカーか不審者扱いだ。
並走する電車で見かける、あの女性はどんな人なのだろう?
「彼女と話してみたい」
そう思うほどに思いを募らせた崇史の気持ちはわかる。
しかし、実際に声をかける勇気はそうそう出ないのが普通。
向こうの電車の世界とこちらの電車の世界がつながっているような錯覚に陥る不思議な出だしが、この物語に欠かせないキーワードだ。
記憶を改変することはできるのか?
自分の記憶が改変されているなんて、誰も思わないだろう。
でも、時々思い出す記憶と覚えていることが違っているような違和感がある。
時々ふっと思い出す記憶がおかしい…?自分は麻由子と付き合っていて、昔からの″思い出″もあって…いや、麻由子は智彦と付き合っていた…?
そんなはずは…あれ、そういえば智彦はどこへ消えた…?
おかしい、誰かが記憶を改変したとでもいうのか?
そんなわけがない、誰がそんなことをするって言うんだ。
そんな技術があるわけないだろう。
混乱に堕ちていく崇史の気持ちが揺れ動くさまが、まるで自分事のように迫ってくるリアリティ。
いったい何が正しいのか、読んでいるうちに混とんとしていくのが面白い。
記憶は曖昧で雲のようなもの
改変される前の記憶を取り戻した崇史。
そして行方が分からなくなっていた親友、智彦の居場所を突き止める。
崇史が見たものは、昏睡状態に陥った智彦の姿。
崇史に事情を全ていきなり話してしまうのは、脳にどんな悪影響があるかわからなくて危険だからできなかった
智彦を助けようとする反面、記憶改変を行ったバイテック社。
話の発端は、実験台になった篠崎伍郎の昏睡。
伍郎が以前と違うことを言い始めたため、「願望から生まれた空想が記憶に影響を与えるのでは?」と考えた智彦。
智彦は麻由子との記憶に苦しんでおり、それを取り除くため実験台になるが、実験はエラーが発生し、智彦も昏睡状態に。
智彦がエラーを見越したうえで実験台になったことを知り、崇史も実験台として記憶の改変を受け入れた。
そして崇史の記憶が戻った今、真実が明らかになる。
伍郎を救うことと、麻由子の気持ちが崇史に傾いていることを知り、諦めるために、智彦は自分を実験台にして伍郎の事故の再現実験を行うことを思いついた。
そうすれば、残された人たちがデータからスリープ状態を解決し、智彦が眠っている間に崇史と麻由子が結ばれると思ったからだ。
未だに脳の機能については、現代の科学でもすべて解明しきれていない。
結局何が正しい記憶なのか、改変された記憶なのか不可思議な感覚に陥っていくだけではない。
誰かを想う感情すらも改変できるのかという疑問と、本当にこんな技術があるのかという疑問。
SFのような展開だが、あり得ないことではないような気すらしてくるから怖い。
まとめ
印象的な出だしから始まった末に起こる、記憶の改変。
あたかも、主人公が2つの世界を生きているかのような不思議な錯覚と2つの世界がひとつにまとまった瞬間の衝撃はなかなかのもの。
ぜひ一度手に取って読んでみてほしい。
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