過激な女性たちに振り回された、ろくでもない男の実話小説『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)。タイトル的にてっきり鬱作品なのかと思いきや、いい歳したアラサー男子が思いのほか勇気づけられてしまいました。恐るべし、爪切男…。
そもそも原作者であり、小説の主人公でもある爪切男(つめ きりお)とは一体どのような人物なのか。まずは彼の前情報から説明させてください。
じつは彼、同人誌即売会・文学フリマにて『夫のちんぽが入らない』の作者たちとユニットを組んでいた人物。
2016年にはWebサイト「日刊SPA!」で『タクシー×ハンター』というエッセイを連載し、驚異的なPVを記録しました。
その中でも特に人気の高かった恋愛エピソードを中心に、大幅加筆修正してまとめたのがデビュー作でもある『死にたい夜にかぎって』。
今年2月には俳優・賀来賢人を主演に迎え、実写ドラマが放送スタート。
まさに飛ぶ鳥を落とす勢いの野良の偉才・爪切男ですが、その半生はまさに波乱万丈です。
たとえば彼が出会う女性は、とにかく一癖も二癖もある者ばかり。
ある日学校一可愛い女の子に屋上へ連れて来られたかと思いきや、「君の顔のダニを殺してあげるね」と言っていきなりビンタをかまされます。
なぜ数いる男子生徒の中で彼が選ばれたのかというと、マドンナ曰くダニが多そうな顔をしているから。
そして極めつけは、彼女が放った下記のセリフ。
「君の笑った顔、虫の裏側に似てるよね。カナブンとかの裏側みたい」
私もかれこれ30年くらい生きていますが、こんなこと口にするマドンナは見たことありません。恐らく母親ですら自分の息子に対して、“笑顔が虫みたい”とは言わないでしょう。
ただドラマ版では、この役柄を玉城ティナが演じていた模様。彼女から言われるのであれば、それはそれである意味ご褒美… いやなんでもありません(笑)。
話は戻り、同作には兎にも角にも個性豊かな女性がいっぱい。
初恋の相手は自転車泥棒で、初めての彼女はカルト宗教を信仰するヤリマン女。初体験の相手は出会い系サイトに生きる車椅子の女性、6年付き合った彼女は新宿で唾を売って生計を立てていました。もうどこからどう突っ込んだらいいのやら…。
そんな女性たちのせいでうまく笑えなくなったり、時に苦くて切ない経験を味わう羽目になるのですが、なぜか“彼の半生は決して悲劇ではない”と思えるから不思議。
むしろ彼女たちと出会えたからこそ、ここまで人を愛せたとすら思えるのです。
いわば悲劇のような喜劇の人生。
おかげで私もいろいろ気づかされたことがあります。
こんな生き方があるのだと。こんな愛し方があるのだ、と―。
「星が綺麗だって思えるうちは人生大丈夫」
死にたくなった夜にかぎって星が綺麗に輝いていたら、まだ自分は大丈夫なのだと笑い飛ばせばいい。
不覚にも人生数十年のアラサー男子、最高にどうしようもない男の人生に励まされてしまいました。
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