吉上亮の『PSYCHO-PASS』ノベライズは、アニメのメインキャラたちの裏話やプライベートを掘り下げた作品だ。
そこではアニメ版では語りきれなかった、シビュラの洗脳監視社会の恐ろしさが暴かれている。
今回は本作と私たちが住む現代社会の類似を挙げていきたい。
基準から外れるのを恐れる人々
『PSYCHO-PASS』の世界において、トップに君臨するのはシビュラだ。
この演算装置が人々を管理し、国の秩序を司る。
シビュラ管轄下では将来的に犯罪を起こしうる人間を弾きだす、色相判定が義務付けられている。
彼らは潜在的犯罪者として主人公たちに追われるが、この時点ではまだ何も罪を犯していない。
ノベライズでは色相判定にひっかかるのを恐れ、過剰な薬剤ケアに逃避する人々が描かれる。
しかもその薬剤が新種の麻薬だったりするのだから手に負えない。
色相の維持に固執し自滅していく彼らの姿は、美容や健康の為とサプリメントを浴びるように飲み、時にドラッグにまで手を出す私たちと似ていないだろうか。
家庭がストレスの受け皿に
シビュラ社会では街の至る所に監視カメラが張り巡らされ、常時人々の行動をチェックしている。
こと街なかにおいてはプライバシーなど、ほぼない状態だ。
潜在犯が公安から逃げきるには、治外法権の廃棄区画にもぐりこむしかない。
本作ではその反動の受け皿となる、家庭の悲劇も描かれる。
ノベライズにおいて弥生が保護した未来は、色相が濁った父親のストレスの捌け口として、家庭内で性的虐待を受けていた。
原則としてシビュラは家庭の問題に干渉しない。
重要視するのはその人物が社会にとって有益か否か、危険か否か。
家庭内の問題で済んでいるうちは不干渉をきめこむ。
少しでも色相が濁ったら差別される社会で揉まれ、日々ストレスを蓄積した人間は、閉じられた家庭にその矛先を向ける。
家庭は聖域というのは間違いで、監視社会のストレスがねじ曲がり一極集中した家庭は小さい地獄となる。
被害者は妻や子供はじめ、弱く無抵抗なものたちだ。
東北大震災で仮設住宅に越した家族の中で、DV発生率が上がった統計が出ている。
仮設住宅は狭く、個々のプライバシーがない為、従来のように長時間トイレに逃げ込むこともできないからだ。
コロナ禍で在宅時間が延びた今、同様にDVの発生件数が上がっている。
病気や災害は人為的な禍ではないが、それに持ちこたえられず歪んだ社会において、ストレスの矛先は常に弱者に向く。
まるで私たちの世界の映し鏡だ。
監視社会の恐怖
シビュラ社会はディストピアだ。
良き市民はシビュラの決定に絶対服従で、疑ってかかることすらしない。
人間はどうしたって人目を気にする生き物だ。
それは本作でもまったく同じで、周囲の評価に怯え、シビュラが是とする正解から外れないように生きたいと願っている。
彼らにプレッシャーをかけているのが、街中に張り巡らされたシビュラの端末を兼ねる監視カメラだ。
私たちのまわりにもごく自然にカメラがある。
防犯上の措置なら致し方ないが、たとえばふらりとコンビニにでかけた際、レシートを丸めて捨てる瞬間までばっちり撮られていると思うと怖くならないだろうか。
平均から逸脱した行動をとる異分子を、秩序を重んじる監視社会は決して許さない。
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