兄弟萌えの世界は奥が深く業も深い。
『おそ松さん』が近年人気を博したように、何故か女子は血が繋がった兄弟の濃い絆に惹かれてしまうのだ。
今回は古典の名作『カラマーゾフの兄弟』から、タイプ別3兄弟に見る、萌えの法則を探っていきたい。
目次
タイプ1:傍若無人で女好きな長男。自分といるときくらいは甘えさせてあげたい!
カラマーゾフ家の長男、ドミートリイは28歳の退役軍人。
女好きで浪費家の放蕩者、言ってしまえば俺様ダメ男。おまけに借金まみれときた。
そんな彼だが、野性的な魅力があるらしく女にモテまくっている。
「この人は私がいなきゃだめ!」と思わせるのか、はたまた「この人を理解してあげられるのは世界で私だけ……」と酔わせてくれるのか。
長男にして無類のダメ男、これはなかなかたちが悪い組み合わせだ。
人は皆後継ぎに完璧であることを求めがちだ。
親の期待や周囲の重圧がかかるせいか、長男長女は下の子と比べ厳しく躾けられるものの、一族の顔として常に品行方正な振る舞いを強いられる息苦しさから、敷かれたレールを逸れてしまうこともままある。
一度そうして転がり落ちてしまえば「この面汚しが!」と敷居を跨ぐたび罵倒され、ますます腐っていく上に、優秀な弟に下から突き上げられて心が休まらない。
父親の前では理想の息子を演じようと空回り、弟たちの前では兄さんぶって空威張る甘え下手な彼だからこそ、自分といる時くらいは甘えさせてあげたい。
それが長男萌えの心理である。
タイプ2:毒舌家のインテリ次男。努力する姿が尊い
カラマーゾフ家の次男、イヴァンは毒舌家のインテリ24歳。
理科大を出た秀才で新聞にも寄稿している。
見た目は冷静沈着そのものの彼だが、その内面に激しい情熱を持て余していることが後に明らかになる。
ドミートリィと正反対の気取り屋のイヴァンだが、本心では兄や弟を深く愛しており、たまに距離感をはかりあぐねて滑る、不器用さにとてもときめく。
次男というのは微妙な立場で、良くも悪くも長男や末っ子ほど関心を持たれにくい。
だからこそ知性を磨いて理論武装し、攻撃的な態度をとることで自分の存在をアピールする。
その毒舌が放任されてきた年月に嵩んだ孤独の裏返しと見れば、途端に愛しくならないだろうか。
長男ほど期待されず末っ子ほど愛されないからこそ、次男が努力する姿は尊いのだった。
タイプ3:清純無垢な愛され天使、三男。自立の一歩を踏み出す姿がいじらしい
アレクセイはカラマーゾフ家の三男で、唯一父親に溺愛されている。
純情で善良な性格の美青年ときて、兄たちの覚えもめでたい。
末っ子というのはもうそれだけでなめるように可愛がられるものだが、アレクセイもご多分に漏れず、作中で出会うほぼすべての人々に好感を持たれている。
そんな彼は兄弟の反目や親子の軋轢に心を痛め、家族の仲を取り持とうと悪戦苦闘するものの報われない。
しかもイヴァンに「お前はそれでも神を信じるのか?」と責め立てられ、言葉に詰まる。
アレクセイは本作における良心であり、皆が彼を愛し、アレクセイも皆を愛し身を捧げているのにもかかわらず、カラマーゾフ一族の運命はどんどん悪い方向へ転がっていく。
末っ子とは皆に守られ庇護される、言ってしまえばおいしいところ独り占めのポジションだが、そんな彼が「僕だって役に立てる!力になりたい!」と自立の一歩を踏み出す姿は、たとえようもないいじらしさと相俟って応援したい気分にさせる。
ここで萌えポイントとして挙げたいのは、子どもだと軽んじていた弟の成長を目の当たりにする、兄たちのリアクションだ。
驚く?泣く?それとも怒る?
突然の下剋上にたじろぐもよし、「大きくなったなあ」と感動するもよし。
なまじ兄弟間の力関係が固定されていればこそ、末っ子の覚醒がもたらす波風は大きいのだった。
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