もしあなたの身内に犯罪者がいたら?
ご近所には陰口を叩かれ、職場や学校でいじめを受け、家の壁に落書きをされるなど、壮絶な生き地獄が待ち受けていることは想像に難くない。
加害者の家族に罪はないといえど、世間は必ずしもそう思ってくれないのだ。
今回はバリー・ライガの小説『さよなら、シリアルキラー』から、シリアルキラーの父親を持った家族の苦悩に迫っていきたい。
職場や学校で孤立、偏見にさらされる宿命
本作の主人公ジャズは小さな町、ロボズ・ノッドで暮らす高校生。
彼の父親は全米一有名なシリアルキラーであり、その息子のジャズは白眼視されている。
当然学校でも腫物扱い、友人といえる存在は幼馴染のハウイーしかいない。
犯罪の加害者家族は職場や学校で孤立する。
身内が事件を起こしたら、それまで仲良くしていた人々とも疎遠になり、どうかするといじめを受ける。
特に地方や田舎町は異分子に厳しい。
物事が流れるスピードが速い都会ではすぐ更新されるニュースが、数年経とうとご近所の噂として残り続けてしまうからだ。
もし加害者家族が人生をやり直したいと望むなら地元を出るしかない。
が、よそへ引っ越して一件落着、というのも現代においては楽観的すぎると言えよう。
ネットやSNSがあるし、噂はどこにでも付いて回るからだ。
犯罪者の身内は偏見にさらされる宿命にある。
地元では色眼鏡、ガールフレンドの家族にも偏見が?
ジャズにはガールフレンドがいる。それが転校生のコニーだ。
彼女はジャズの学校で唯一の黒人生徒であり、コニーの父親は白人のジャズと娘の交際に難色を示す。
そこでさらに投下されたのが、ジャズの父が全米で最も有名なシリアルキラーという事実だった。
コニーはジャズの味方をするが、父親が反対する気持ちもわからないではない。
犯罪加害者の家族は何をしても色眼鏡で見られてしまう。
スーパーに買い物に行くだけでも憶測を呼び、常に息苦しい思いを強いられるのだ。
コニーは転入生だからまだマシだが、地元の住人でジャズと娘の交際を認める人間はいないのではないか。
犯罪加害者の身内と恋愛関係になるということは、将来的に家族になる可能性もあるということだ。
世間の中傷や偏見をともに背負っていく覚悟がなければ、その過程で挫折してしまいそうだ。
父親のようにはなりたくない!アイデンティティの葛藤
ジャズとコニーは恋仲だ。
ハイティーンのカップルだからもちろんセックスに興味津々、ディープキスやペッティングは何度もしている。
ところが、どうしても先に進めない。
それはジャズに「父親のようには絶対なりたくない」葛藤があるからだ。
父親の犯行はセックス殺人の要素が強かったため、異性と性交渉をすることで、自分の中にも殺意が芽生えるのではないかと危惧しているのである。
ただでさえシリアルキラーの英才教育を施された身がゆえ、ジャズの心配はもっとも。
ナンセンスな話だが、現実でも人殺しが遺伝すると本気で信じている者がいる。
血は争えない、カエルの子はカエル、親が親なら子も子……
これらの言い回しが代表するように、私達には「犯罪者の血を引いているんだから、子供も将来犯罪者になるに違いない」という厄介な先入観がある。
だが実の所、それはこり固まった思い込みに過ぎず、仮に犯罪者の子供が犯罪者になるとしたら、それは育て方と世間の差別が原因のはずだ。
子供自身がいちばん親の二の舞を恐れ、抗っているのだということを心に留めておきたい。
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