剣と魔法の世界と聞いて何を思い浮かべるだろうか?
中世ヨーロッパ風騎士道の世界も悪くないが、灼熱の太陽が輝くアラビアンファンタジーも捨てたもんじゃない。
今回は古川日出男『アラビアの夜の種族』から、エキゾチックな魅力にあふれたアラビアンファンタジーの魅力を開拓していきたい。
魅力その1:熱砂とオアシスが広がる世界観
アラビアンファンタジーの魅力は、なんといっても熱砂とオアシスが広がる世界観。
ラクダに乗ったキャラバンが巡る都市国家には、オリエンタルな憧れが詰まっている。
人々の衣装も素敵だ。
女性はベールで淑やかに顔を隠し、金銀宝石の装身具で飾り立て、男性はターバンを巻いている。
『アラビアの夜の種族』にも見目麗しい語り部が登場するが、彼女は終始ベールで顔を隠しており、やんごとなく涼やかな目元だけが露出している状態だ。
それがまたいい。
太陽や砂塵に肌をさらし続けるのは致命的であり、布を巻き付けるのは自衛の鉄則なのだが、目元だけ覗かせるのがかえってミステリアスというかぐっとくるというか。
それでいてヘソはがばっと大胆に出しているのだから、防御力が低いんだか高いんだか謎である。
砂漠といえば蜃気楼が付き物だ。
はてしない砂漠を何日もさまよい、やっと街が見えてきたと思ったら、どれだけ走っても辿り着けない絶望はいかほどか。
昔の人々はたちの悪い魔法と錯覚したに違いない。
なればこそ、オアシスの恵みがもたらす歓びは格別だ。
いくら手を伸ばせど掴めない蜃気楼の如く、虚実をぼかす神秘の残響がアラビアンファンタジーには息衝いているのだった。
魅力その2:個性豊かなジン
『アラビアの夜の種族』には実に個性豊かなジンが登場する。
ジンとは、アラブにおける精霊や妖魔の総称。
『アラジン』でご存知の方も多いかもしれない。
彼らの姿かたちはさまざま、絶世の美女として現れる事もあれば旅籠の軒先で日向ぼっこする猫の姿を借りることもある。
西洋の妖精も色々と化けていたずらをやらかすが、こちらも負けず劣らず好奇心旺盛に人間と交わって、印象的なエピソードを紡いでいくので注目してほしい。
魅力その3:美しい呪文のような名前の響きにロマンを感じて
アラビアンファンタジーの魅力は異国情緒あふれる人名によるところも大きい。
本作の主人公は美貌の奴隷・アイユーブ。
他に最強の魔術師・アーダム、アルビノのファラー、王家の末裔・サフィアーンが出てくる。
どうだろうか、ざっと主要人物の名前を並べてみただけでうっとりしないか?
まるで名前そのものが魔法の呪文のようで、私たちの心を熱砂が吹きすさぶ別天地に連れて行ってくれる。
実際覚えるまでが一苦労だが、美しい呪文のような響きを持った登場人物が神出鬼没のジンと繰り広げる冒険の物語は、時に竜巻を起こし、時にオアシスを湧かせ、めくるめく表情を見せる砂漠さながら、壮大なスケールで私たちを魅了してやまないのであった。
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