『メタルギアソリッド ガンズ・オブ・ザ・パトリオット』
メタルギアシリーズへの愛が溢れた、ゲームノベライズ
こちらは、小島秀夫氏率いる小島プロダクションが制作した大人気ゲーム『メタルギアソリッド』の中でも、メタルギアサーガの終わりを告げる完結作、『メタルギアソリッド4 ガンズ・オブ・ザ・パトリオット』を、伊藤計劃氏が1冊の小説として纏め上げたノベライズ版だ。
このシリーズに関しては既読・未読に拘らず、ご存知の方も非常に多い筈。
伝説の英雄であるソリッド・スネークや、新兵・雷電を操り、敵の目を掻い潜りながら核搭載二足歩行型洗車・メタルギアを破壊する、ステルス・ゲーム。
スニーキングミッションという新たなゲームスタイルやハードボイルドなキャラクター達、そして心躍る数々のメカと骨太のストーリー。
それが『メタルギアシリーズ』だ。
そんな『メタルギアシリーズ』の熱心なファンであった伊藤計劃氏は、小説家としてデビューする以前から、あくまでもファンとクリエイターとして、小島秀夫氏と親交があった。
そして『虐殺器官』でデビューを果たした伊藤計劃氏に、遂にクリエイター同士として交流することになる小島秀夫氏が依頼して出来上がったのが、今作だ。
伊藤計劃氏が〈単なるゲームのノベライズではなく、書架に並んで何度でも再読に耐え得る本にしたかった〉と語る通り、本書は1冊でメタルギアサーガの大きな流れを追える構成となっている。
ビッグ・ボスと呼ばれた伝説の傭兵。
そのクローンとして生まれたソリッド・スネークは、世界中を飛び回り、幾度となく悪魔の核兵器・メタルギアを破壊してきた。
しかしその肉体はクローンとしての宿命から、急激な老化に蝕まれている。
更に、かつてシャドー・モセス島でのミッションの際、遺伝子学者のナオミ・ハンターによって彼の肉体に打ち込まれた、特定の遺伝子配列を持つ人間だけを死に至らしめるナノマシン・FOX DIE。
それが変異を重ね、無差別に人を襲う凶悪なウイルスになろうとしている。
世界を救ったとしても、その後に彼自身が歩く大量殺戮兵器になってしまう。
そうなる前に、彼は死ななければならない。
それでも彼は世界を救うために、世界で生きる者達を救うために、地獄から蘇った呪われし兄弟であるリキッド・スネークとの戦いへと挑んでゆく。
戦争経済と愛国者達、そして恐るべき子供達計画。
その全てに1つの結論を齎す伝説の英雄の戦いが、この1冊に収められている。
本書はオタコンこと、ハル・エメリッヒが伝説の英雄ソリッド・スネークのことを語る、という形態で進んでいく。
利潤追求が目的の経済活動と化した戦争。
その最中に飛び込んでゆくスネークをサポートしながら、友人として彼を心配をするオタコンの矛盾と苦しみ、そして優しさが、本文からひしひしと伝わる構成だ。
そして、彼が語る伝説の英雄、ソリッド・スネークの活躍。
オタコンの語りは、伝説の英雄という言葉からは想像もつかない、ソリッド・スネークの苦悩や悲しみをも余すことなく伝える。
また、物語を再構成する上で、ゲームならではのイベントシーンは敢えて削って、その分キャラクター達の行動や心情に描写を割いた伊藤計劃氏の目論見が見事に成功しており、無駄なく、かつ情緒的に物語が展開されている。
メタルギアシリーズをプレイしたことがある人もそうで無い人も、『メタルギアソリッド ガンズ・オブ・ザ・パトリオット』という名の1冊の小説として楽しめる作品だ。
また本書の最後には、小島秀夫氏が伊藤計劃氏について綴った、短いあとがきが収録されている。
小島秀夫氏と伊藤計劃氏の出会いや、本書を書くことになったきっかけなどが語られており、本書がどれほどの熱量を持って書かれた小説なのかを再確認できる。
『メタルギアシリーズ』と『作家・伊藤計劃』、双方のファンは特に必読だ。
『メタルギアソリッド ガンズ オブ ザ パトリオット』あらすじと感想【「メタルギアサーガ」ついに完結!】
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『メタルギアソリッド ガンズ・オブ・ザ・パトリオット』の基本情報 | |
出版社 | KADOKAWA |
出版日 | 2010/03/25 |
ジャンル | SF |
ページ数 | 537ページ |
発行形態 | 文庫、電子書籍 |
『The Indifference Engine』
伊藤計劃氏のフィクション作品を纏めた、傑作短編集
早川書房から刊行された伊藤計劃の遺稿集、『伊藤計劃記録』『伊藤計劃記録:第弍位相』から、氏の創作作品を抜粋、再編集した1冊。
あの有名なスパイ映画『007』の主人公、ジェームス・ボンドをコンテンツとして再解釈し描いた僅か数ページの漫画『女王陛下の所有物』や、前述した『メタルギアシリーズ』の中でも『メタルギアソリッド3 スネークイーター』の後日談を描いた『フォックスの葬送』。
或いは戦争と、それに伴う憎しみと赦しを生々しくもシニカルに描いた表題作『The Indifference Engine』など、氏の多才さを存分に感じられる短編達が収録されている。
また収録されている作品の中には、前述した『虐殺器官』のプロトタイプとなった作品や、あるいは『ハーモニー』に引き継がれるテーマを持った作品なども存在する。
そのため、今作を読んだ後に其々の作品を再読すると、また違った角度から物語を見据えることが出来るだろう。
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『The Indifference Engine』の基本情報 | |
出版社 | 早川書房 |
出版日 | 2012/03/09 |
ジャンル | SF |
ページ数 | 303ページ |
発行形態 | 文庫、電子書籍 |
おわりに
以上、伊藤計劃氏のおすすめ作品5つを紹介した。
全ての作品が世界を高い解像度で捉えており、非常に示唆的だ。
それをただ単に情報として羅列するだけではなく、あくまでも小説として〈面白く〉描かれていることや、繊細でシニカルながらも読み易い文章で綴られていることから、SFに馴染んだ読者は勿論のこと、これまでSFにあまり興味がなかった人にも、ぜひ入門書として手に取って欲しい。
きっと、更なるSFの魅力に取り憑かれることだろう。
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